バナナの選択
                バナナは、生きるために、子孫繁栄の選択権さえも人類にゆだねたんだ。 一生懸命に生きるって?                 生きる、ということにおいて、僕たちの決意なんて、 バナナの勇気の百分の一にも及ばないよ。         ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

No.170731 S氏の憂鬱

その人形は、町の外れのゴミ捨て場に捨ててあった。そこを通りかかったS氏は、その人形と目が合った。かわいらしい女の子の人形だった。見たところ、少しも傷んでいない。くり色の巻き毛、ぱっちりとした大きな瞳、小さなピンク色の唇、何もかもがかわいら…

No. 170627 断章

「彼らに」 あなたは誰ですか。僕はあなたを知りません。僕は、はじめから、あなたのことなど知らないのです。それに、べつにあなたのことを知りたいとも思いません。僕にかかわらないでください。近よらないでください。話しかけないでください。こっちを見…

No. 170422 そして、かなしい。

小三の夏。僕はある犯罪をおかした。学校の備品を破壊して盗んだのである。共犯者は、T君。T君は、貧しい家の子だった。着ている服も薄汚れてすりきれて、彼自身も垢じみていて、彼に近づくといやな臭いがした。勉強もできなかった。だから、クラスのみん…

No. 170401 水あめと夕陽と。

僕が幼稚園の頃住んでいた市営住宅の近くの公園には、毎夕、紙芝居屋のおっさんが自転車でやってきた。紙芝居屋のおっさんが鳴らすチリンチリンという鐘の音が聞こえると、子どもたちは10円玉を握りしめて公園に走る。公園では、おっさんの自転車の前に子…

No. 170305 よしまつさん。

よしまつさん。としか覚えていない。もう何十年もむかし。僕が小学校二年生の頃。よしまつさんは、クラスでいちばん、かわいい女の子だった。色白の丸顔で、二重の大きな目をしていて、髪を赤い玉のついたゴムで二つ結びに束ねていた。明るくて、いつも笑っ…

No. 170226 だれも救えずに。今日も、また。

京子は、青森出身の子だった。東京の私大に進学はしたけれど、青森の実家は貧しくて学費を出せなかった。そこで京子は学費をかせぐために、まだ未成年でお酒も飲めなかったけれど、僕のかようバーでバイトをしていた。そうしてそれでも生活費が足りずに、朝…

No. 170218 その愛は10%未満

その夜、仕事で実につまらないことがあって、いらいらして、何のためにこんな仕事をやっているんだか、何のためにいろんなことで気をつかっているんだか、何もかもがバカバカしく、ああ、つまんねえ世界だ、バカしかいねえ、おまえらのことだ、バカどもが、…

No.170212 さらば去れ。我を苦しめるもの。

ふと目が覚めると、僕は、タオルケットをお腹にかけて、自分の四畳半の勉強部屋で寝転がっていた。夏休みのある日の夕刻だ。窓から橙色の夕陽がさしこんでいる。僕が生まれたころから使っている古ぼけた扇風機がカタカタと鳴りながら風を送っている。台所か…

No.170211 ある兵士の記録

僕はむかし、大学生のころ、ある大手の進学塾で非常勤講師のアルバイトをしていて、そこには、僕のような大学生の非常勤講師のほかにも、元中学校の校長先生だったとか、なんとか会社の元部長だったとか、いわば定年後の年金の足しにするために非常勤講師を…

No. 170206 清左衛門の嘘

青島清左衛門は、伊東三位入道義祐の侍大将で、三位入道の日向国制覇を支えた武功第一のさむらいであった。が、天正四年、九州統一をめざして猛進する薩摩島津軍による熾烈な反撃がはじまる。その日本最強を謳われる島津兵三万を率いるのは後年、徳川家康を…

No. 170131 便所のネズミ

楚の人、李斯は、便所のネズミが汚物を食らい人犬におびえる一方、官倉のネズミはたらふく粟を食らい人犬も眼中になかったのを見て、卒然として人生の奥義を悟り、人の価値はその居場所で決まるとして己れのあるべき居場所を探し求め、ついに始皇帝の治める…

No.170129 そして、なぜ、君はそこに。

それ以来。彼は世界を捨てた。彼の世界はかたちをなくし、目に見えるものは薄ぼんやりとした色彩の明滅にすぎず、耳に聞こえるものは不調和な雑音にすぎなくなった。 それ以来。彼は愛を信じることをやめた。彼はいのちをうしない、彼のむきだしのたましいだ…

No.170122 断章

彼が言った。 氷が燃えるとしたら、その炎は、どんな色だろう。 それが、きっと、僕のたましいの色だろう。と。 又。 この世で、いちばんつまらない話とは。 好きな女が話す、むかしの男の思い出話。 はやくやめろ。聞きたくない。 又。 座右の銘。 「酒もタ…

No.170115 ハードボイルド無情

その男は、殺人容疑で手配され、鹿児島県T市郊外で警察のヘリおよびパトカー20台に追い詰められ逃走車内で拳銃弾をこめかみに撃ち込んで自殺した。男の名は、黒木。黒木に嫌疑のかかる殺人は少なくとも15件。被害者は、会社社長、医者、弁護士等のいわ…

No.170109 愛? 笑わせるなよ。

先生って、いつも、冷たいよね。と、その女生徒から言われたとき、彼は、愕然とした。彼は、塾講師として、この少女の成績を上げるために、どれほど講義内容を工夫したことだろう。どれほど懇切丁寧に解説してやったことだろう。時給も出ないのに、いったい…

No.161030 千日間

矢垣が、その女と暮らした日々は、ちょうど千日間だった。 女は、なっちゃんと呼ばれていた。矢垣となっちゃんとは、大学のサークルで知り合った。矢垣が三年生、なっちゃんが一年生であった。やがてふたりは恋に落ち、矢垣のアパートで同棲するようになった…

No.160730 なんじ、なすべきことをなせ

あんたね、何のために生きてんの? と、人から問われ、あるいは自らに問うてみたことのない人なんて、たぶん、いないだろう。いたとすれば、そのひとは、きっと、永遠の無意味、永劫回帰の無限奈落にも耐えうる超人級のつわものであろう。ところが残念ながら…

No.160611 くしゃみと偶像崇拝

くしゃみ、という現象ほど、僕をがっかりさせるものはない、と言っても過言ではない。まことに、あの、くしゃみというやつは、何とまあバカバカしいのだろう。へっくしょん!と実に素っ頓狂な声をあげて、つばきをまき散らす下品さはもちろん、何よりも、あ…

No.160604 ユーコちゃん

むかし、職場の近くのスナックに、ユーコちゃんというアルバイトの女の子が新しく入った。ユーコちゃんはその町のはずれにある小さな私立大学の学生で、学校帰りにジーパンにTシャツでお店に通ってくる姿は、ママの親戚の中学生が遊びに来たのかと思うくら…

No.160514 天国のドアと蜘蛛の糸

ああ、何て、つまらない人生だ、と思いながら今日もまた地下鉄に乗って家路につく。どうして、もっと金持ちの親のもとに、生まれなかったのだろう。そうすれば、人生はきっと、ずっとずっと楽しかっただろうに、とつくづく思う。まことに貧しい家庭であった…

No.160507 愛の定義 いのちの定義

愛といのちと存在と、この三つのことは、たぶん、同じことを言っているのだと僕は思うんだ。 愛の定義って、何だろう。ある人はこう言う。それは、生物の種の保存のための先天的衝動に過ぎない、と。でも、それなら、ペットの犬猫への飼い主の愛情は、あれは…

No.160501 夢かうつつか

人生は、夢かうつつか。よく聞くセリフ。でも、夢かうつつか、って区別じゃないと思うんだ。そもそも、うつつなんて、どこにもないんじゃないかって思う。 たぶん、全部、夢なんだ。たくさんの夢が、いくつもいくつも無限に重なっていて、その夢と夢の間を、…